春分 桜はじめてひらく

石庭 雑記(二十四節気など)

令和二年3月20日は春分です。令和三年も同日で3月20日です。
春分点は太陽黄経0度で起点と設定されています。太陽が真東からのぼり、昼夜の長さがほとんど同じになります。
春分は春の彼岸の中日です。気候とからんで「暑さ寒さも彼岸まで」という言葉があります。彼岸の頃には過ごしやすくなっているものだよ、というのが言いたいことです。実は春分と秋分は気温がまったく違います。東京の場合で春分は平均摂氏10度、秋分は平均摂氏22度です。「過ごしやすさ」の基準がダブルスタンダード? とも思ってしまいますが、上の言葉は、暑さ寒さのピークはとうに過ぎているよ、ということが言いたいのでしょう。

恋ひわびてながむる空のうき雲や わが下萌のけぶりなるらん (周防内侍・すおうのないし)

下萌(したもえ)は枯草・枯葉の下で新しい草が芽吹くことを指します。けぶりは煙と気振りがかかっていると考えられます。取り澄ました恋情ではなく、情熱を秘め、そこからあふれだした煙が大きくなっていることを詠っています。

さて桜が咲き始めるとあります。これは季節にあっています。桃の花が笑う(咲く)時季が暦の上でずれていたのに、桜があっているのは不思議です。
どうもこの桜は山桜や八重桜の系統をさしているようです。現代人はたくさん植えられた染井吉野(ソメイヨシノ)を基準に、桜といえば三月末から四月の頭と思っています。ソメイヨシノは葉が少ないほとんど花の状態に、木々がいっせいにかわっていきます。これはたしかに圧巻で、しかも咲きながら散っていきます。なるほど、日本人が好む花なのがわかりますね。ソメイヨシノは接ぎ木で殖えた、現代風に言えばクローンです。
山桜など桜の野生種はクローンではありませんから、木に個性があり、いっせいに咲いたり散ったりしません。四月全般が見頃です。また八重桜の系統は開花が遅く、四月中旬以降が見頃です。
江戸・明治以降のソメイヨシノの隆盛で、新暦と桜の時季があってしまったのではないかと思います。
ソメイヨシノ以外の品種もたいへん美しいので、探して見に行ってみるとよいかもしれません。

下の歌は上の歌と同じ詠み手。山桜がでてきます。

山桜 をしむ心のいくたびか 散る木のもとに行きかへるらん (周防内侍)

散る桜を惜しんでいますが、相手を人と考えることも可能です。もう終わるとわかっているから行ってしまう、ということでしょうか。

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